第4章 嬉しい癖に
「…………」
「…………」
いつの日だったか、彼女と最初に対面したときのことをディートリヒは思い出す。あの日も、エルフィはこうやって静かに自分を見つめていて。
彼女と出会ったのは一月前だったというのに、もう何年も前から一緒にいるかのような感覚だった。
「ディートリヒ」
あの日と同じようにエルフィが彼の名前を呼ぶ。そのやさしく透明感のある声に、ディートリヒは胸がいっぱいになり、エルフィの体を強く抱き締めた。
始めて触れる彼女の体は細身の割にやわらかくて、温かくて、一片の疑いもなしに人間の体であることがわかった。
「どうしたの」
「いや……何て言えばいいかわからないんだ……」
「私の体、大きくなったね」
「……そうだな」
「大きい私より小さい私の方がディートリヒは困らない?」
「そんなわけない。どちらも……『大切』な君だ」
はっきりとそう告げると、エルフィが微かに笑った気がした。彼女が生きていることを実感するために、一度だけ腕に力を入れて抱きしめると、ディートリヒはゆっくりと彼女の体を離した。
「!?」
「わっ!?」
そこで、エルフィが何も着ていないことに気付き目をむく。アルベルトとアニータもそのことに気付くと、火のように顔を赤くして視線を泳がせる。
ディートリヒが床を見ると、千切れた布の残骸が転がっていた。彼女の体が大きくなったときに破けた服だろう。