第4章 嬉しい癖に
「……触らないで」
その瞬間、エルフィの目が開く。ルビーのように赤い瞳を見た兵士は、腰を抜かして地べたに座り込んだ。
「あなたたちはディートリヒを困らせる人。何もかも忘れて、すぐにここから出て行くの」
目の前の兵士はエルフィにそう命じられると、何かに取りつかれたかのように小さく頷くと、ぼんやりとした表情で入口へと歩き出す。
その後に同じように焦点の定まらない目をして地上へと戻り出す部下たちの行動に、ゲラルトが怯えたようにうろたえる。
「な、何だ貴様ら! 何をしているんだ! は、早くこいつらを……!」
喚きだした彼に、エルフィの赤い瞳が向けられる。
「……あなたも、さようなら」
その一言を聞いた瞬間、ゲラルトは背筋を真っ直ぐに伸ばすと、部下たちと同じように呆けた表情で列の最後尾に並ぶ。ガチャガチャと鎧を鳴らして、突然の訪問者たちはディートリヒたちの前から去って行った。
「…………」
しばしの沈黙の後、先に動いたのはディートリヒだった。両手を縛られたままで、ディートリヒはエルフィへと1歩前に近づく。
アルベルトが慌てて、彼の手に付けられた縄を解いてくれるが、ディートリヒは何も言葉を出すことができない。