第4章 嬉しい癖に
……いない。そのはずだった。
「何、これ……」
アルベルトの呆気にとられた声がする。その声は意気消沈し塞ぎ込んでいるディートリヒの耳を、何事もなく通り抜けていくはずだった。
「む……!?」
「な、何だあれは……!?」
アルベルトだけじゃなく、ゲラルトや周りの兵士が動揺の声をあげ始める。そこでやっと、おかしな事態が起こっていることを知ったディートリヒは緩慢な動作で振りかえった。
「あれは……」
目を疑うような光景だった。黒ずんでいたエルフィの体が白く光っていた。
最初は淡く蛍のような光だったが、弱まるどころかかえって強まり、放射状に地下室を照らす。
「うっ……」
あまりの光の強さに手で目を覆ったとき、光が白から赤い光へと変わっていく。光は一際強く、一瞬だけ光ると、エルフィに吸い込まれるようにして消えてしまった。
言葉を失っているディートリヒたちの目の前で、エルフィを包んでいた黒い膜がかさぶたをはがすように落ち消滅していく。そして、彼女の白い体がゆるやかに大きくなっていった。