第1章 たんぽぽ
地上に出たディートリヒは、誰かに見つからないように地下室への扉を絨毯で元通りに隠す。玄関の扉を開けると、双子に薬の入れ物を渡した。
「ほら、これだ。いつもと同じように使うよう言っておいてくれ。あと、これはアルベルトの捻挫用の薬だ」
もう一つ余分に渡された薬にアルベルトは目を丸くする。
「え、でも……」
「別に気にするな。お前もドミニクもこれを塗って早く怪我を治すんだな」
その言葉にアルベルトと妹のアニータは顔を見合わせて満面の笑みになった。
「ありがとう! ディートリヒさんの薬がよく効くって、皆喜んでたよ。大切に使うね」
「最近、冬を迎えるために屋根を直す途中で怪我をする人がいっぱいいるのよ」
「僕らも怪我しないように気を付けるね」
アニータが薬を受け取ると、ひらひらと手を振る。
「それじゃあ、もう行くね。ディートリヒさん、ちゃんと部屋の片づけをしておいてね。また片づけに行くから!」
「あ、あぁ……ありがとう」
「またねー」
仲良く手をつないで村へと帰っていく2人を見送ったディートリヒは、ふぅとため息をついて振り返った。