第3章 よく言えるよ
「ここにも部屋があったぞ!」
「!」
ドタドタと騒がしい音とともに、兵士たちが中になだれ込む。手に剣を持った兵士たちの後ろから、腕を後ろで縛られ、兵士に捕まったディートリヒも入ってくる。
強制的に膝を床につけさせられたディートリヒの額から血が一筋流れている。恐らく抵抗しようとして殴られたのだろう。
「アニータ……アルベルト……!」
「ディートリヒさんっ!」
ディートリヒが表情を歪め、恐怖で固まる双子を切なそうに見つめる。
「まさか地下にも部屋があるとはな」
ゲラルトが下卑た笑みを浮かべて、室内に入ってくる。ゲラルトは机の上に載っている「命の構造」を手に取ると、満足そうに頷いた。
「もう隠しきれんぞ、錬金術師ディートリヒ」
「…………」
「さて、金はどこに隠したんだ」
うなだれたディートリヒの表情はわからない。ゲラルトは片手で作業台をひっくり返し、部屋の脇まで投げ飛ばす。棚に叩きつけられた作業台から実験器具が床に落ちては割れる。
「きゃっ!」
「うわあっ!?」
目の前で投げ飛ばされた作業台を避けようとして、アニータとアルベルトが後ずさった。そのときアニータの背中がフラスコにあたり、ぐらりとその入れ物が傾く。
「ひゃあっ!」
「アニータ!?」
双子の悲鳴を聞いて顔を上げたディートリヒ。左目を自身の額から流れる血で赤く染めながら見たのは、ホムンクルスの入ったフラスコが床へと落ちていくところだった。
――ディートリヒ。
エルフィの口が彼の名前を呼ぶ。だが、その言葉がディートリヒの耳に届くことはなかった。
そして、フラスコの割れる音が部屋に響く。