第3章 よく言えるよ
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奥の部屋へと逃げ込んだアルベルトとアニータは、ディートリヒの寝室に入ると扉を閉めた。まだ激しく波打っている心臓の上に手を置き、2人は大きく息を吐き出した。
「ディートリヒさん、大丈夫かな……」
「あの人たち、前にも来てたよね……」
2人とも難しいことはよくわからない。それでも、あの兵士たちが「嫌な大人」であることは直感的にわかっていた。
ディートリヒのことを案じながら、アルベルトが後ろを振り返ったとき、ベッドの横に穴が開いているのが見えた。
「アニータ、見て」
「何? ……え?」
同じように振りかえったアニータは目を丸くした。穴のように見えるが、階段が底に続いているので、地下室への道だということがわかる。
「……どうする?」
「か、勝手に入ったら怒られるよ」
「でも、気になるじゃん」
「確かに……でも、暗いし……」
顔を見合わせて相談する2人だが、廊下の方から兵士たちの野太い声と足音がやってくるのを聞いて、びくりと身をすくませる。
「い、行こう!」
「うん!」
アルベルトはアニータの手のひらを握り、アニータもそれを握り返すと、2人は地下への階段を足早に下りていく。