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太陽が咲いた

第3章 よく言えるよ


「もー、そんな言い方しなくてもいいじゃん」
「パンあげないよー?」
「いや……すまない。中に入ってくれ」

 2人を中に入れると、リビングで待っていてくれるよう頼む。その間にお湯を沸かし、顔を洗い、簡単な身支度をすると、ディートリヒは再びリビングに入った。
 テーブルの上には既にパンとコーヒーが用意されており、それぞれの香りが程よく部屋の中にたちこめていた。

「これ美味しいよ。僕が作ったんだ」
「ディートリヒさん、はいコーヒー」

 ディートリヒは2人の満面の笑みに、少しだけ表情をゆるませる。

――ここにエルフィもいれば、もっと……。

 自然とそんなことを思っている自分に驚くディートリヒだが、2人はそれに気付かない。

「座らないの、ディートリヒさん」
「あぁ、いや……そういえば君たちは両親と食べなくていいのか?」
「父さんも母さんも、もう仕事で忙しいからさー」
「そうそう。夕ご飯は一緒に食べられるけど、朝は仕込みでいっぱいいっぱいなんだよ」

 顔を見合わせながら、うんうん、と頷く2人。ディートリヒはそうか、と呟くと、コーヒーのカップに口をつけた。

「それよりいないんだね。ざーんねん」
「誰がだ?」
「ディートリヒさんの『コイビト』」
「!」

 アニータの言葉に危うく、コーヒーを吹き出しそうになる。何とか飲み干すが、喉に詰まりむせかえってしまう。

「わっ! だ、大丈夫?」
「だから……恋人なんていないと言っただろう?」

 ナプキンで口を拭きながら、ディートリヒは息を落ちつかせる。心の中で「恋人はな」と付け加え、残りのパンを口に入れた。

「……それより、2人とも早く食べた方がいいんじゃないのか? 家の手伝いをしたほうがいいだろう」
「あー、話逸らしたー?」
「結局わからずじまいかー。怪しいなー」

 ふてくされた表情になる2人をなだめながら、ディートリヒは食器を片づける。
 流し台に食器を置き、食器を洗うために川の水を汲んでこようと、隅に置いてあった木の桶を持ちあげたときのことだった。
 バン!と扉が蹴破られる音と、アニータの悲鳴が聞こえた。その声を聞き、手から桶が滑り落ちる。
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