第3章 よく言えるよ
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「……ディートリヒ、ディートリヒ……」
名前を何度か呼ばれ、ディートリヒは顔を上げると、声の主を確認しようとゆっくりと頭を左右に回した。どうやら実験の途中で眠ってしまったようだ。
後ろを向くと、エルフィがこちらを見ていた。
「起きた?」
「あ、あぁ……」
ぐっと体を伸ばし、大きく息を吐き出した。その動きで肩からコートがずれて床に落ちた。自分でかけた覚えはないので、恐らくエルフィがかけてくれたのだろう。
「今、何時だ……」
「朝だと思う」
「そうか……」
「ねぇ、外に誰かいるみたい。壁の呼び鈴が鳴ってたよ」
「!?」
その言葉を聞いて、ディートリヒは一瞬にして真っ青になる。昨日の兵士たちかもしれない。
慌てて試験管の中身を見るが、底には黒ずんだ石しかない。また失敗だ。舌打ちしそうになるのを抑え、ディートリヒは大慌てで地上へと出る。
あまりにも慌てていたため、地下室への扉を閉めることと絨毯を元に戻しておかなかったことに気付かなかった。
「おはよー、ディートリヒさん!」
「朝ごはん持ってきたよー……っていうか、今まで寝てたの?」
玄関の扉を開けると、アルベルトとアニータがそれぞれ手に布をかぶせたカゴをもって笑顔で立っていた。カゴからは香ばしいパンの香りがする。
「……何だ、君たちか……」
一気に体から力が抜け、ディートリヒは壁にもたれかかった。早とちりした自分が悪いのだが、それにしても心臓に悪い。
事情を知らない2人は不満そうな顔になり唇を尖らせる。