第3章 よく言えるよ
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何とか質問攻めをかわしきったディートリヒは、足早に帰路についていた。既に日が暮れていて、もうすぐ夜闇に包みこまれそうな森を歩きながら考えていたのはエルフィのことだった。
不思議とここ最近、彼女と離れていると会いたいと無性に思う。慣れない感情に戸惑いながらも、それはそれで悪くないと思っていた。
聞きなれない馬の鳴き声に顔を上げると、森の入口に馬が3頭繋がれていた。眉をひそめたディートリヒだったが、思い当たる節があり、ハッとして森の中へと走り出す。
「誰だ!」
家の前に鎧を着た男が3人いた。その姿には見覚えがある。1月前に錬金術師を取り締まりに来たゲラルトという男の部下だ。キッと相手を睨みつけると、相手に臆することなく詰め寄る。
「いったい何の用だ」
「貴殿の家を調べに来た。前回はあのボロ小屋がそうかと勘違いしてすぐに出ていったが、今日はそうはいかない。徹底的に調べさせてもらおう」
「……令状もなしに勝手に人の家に上がれると思うな」
低く唸るように吐き捨てたディートリヒの勢いに男たちはたじろぐ。ディートリヒは1歩前に進むと、怒りと憎しみをあらわにした。
「早く出ていけ」
決して怒鳴っているわけではないが、溢れんばかりの殺意に男たちはそそくさとディートリヒの家から去っていった。馬の鳴き声と足音が遠くなっていく。
男たちの姿が見えなくなったのを確認して、ディートリヒは家の鍵を開けて中へと入った。
強行突破された気配はないことに安心するが、もし帰るのがあと少し遅かったら入られていただろう。焦りと不安を抱え、ディートリヒは地下へと急ぐ。