第3章 よく言えるよ
「僕ら知ってるよ。アイジンって言うんでしょ?」
「どこからそんな言葉を覚えてきたんだ……」
「父さんが言ってた。っていうか、村の人みーんな噂してるよ。ディートリヒさんは絶対コイビトとかアイジンができたんだ、って」
「そうそう。だって、ディートリヒさんの雰囲気全然前と違うもん」
「……どう違うんだ」
「んーとね。丸くなった! あ、体型のことじゃなくってね。前はもっといかにも引きこもりって感じがしたけど、今は嬉しそうな顔によくなってるよ」
そう言われて、ディートリヒは驚いてしまう。周りにはそんな風に見えていたのか。
思っている以上に自分が村人に見られていると知り、複雑な心境になってしまうが、2人はますます目を輝かせて引きさがる気配がない。
「と、とにかくアイジンなんて言葉は使うな。別にアイジンでもなければコイビトでもないし、まず君たちには関係ないからな」
「よく言えるよ。これだけわかりやすーいことやってて。ねえねえ、どんな人? 綺麗? 優しい?」
「背は高い? それとも低い? どこで出会ったの?」
「こらこら、2人とも。そんな風に詰め寄らないの。プライベートっていうもんがあるんだからさ」
やっと助けの手が伸べられたと思いきや、アンネの顔にもアルベルトたちと同じくニヤニヤとした笑みが浮かんでいるのを見て言葉に詰まってしまう。
「3本、おまけしときましたよ」
こそっとそうまでささやかれてしまい、ディートリヒは諦めのため息をついた。