第3章 よく言えるよ
「こんにちは、ディートリヒさん!」
「これから帰るところ?」
アルベルトとアニータが手をつないで立っていた。
ニコニコと笑っていた2人は、アンネがディートリヒにスイセンの花束を渡し、代金をもらっているのを見ると驚いた顔になった。
「ディートリヒさん、好きな女の人でもできたの?」
「え?」
「だって、ここ最近よくお花とか本とか買ってるじゃん」
「……花はともかく、本はいつも通りだろう?」
「えー。普段ならすっごくムズカシソーな本を買ってるのに、最近は恋愛小説とか詩集とかを買ってるってテオバルトおじさんが言ってたよ」
本屋の主人の名前を出され、ディートリヒは困ったように指をこめかみに当てる。
「それに家にお掃除しに行くと、必ず綺麗になってるじゃん」
「……自分で掃除しただけだ」
「本当かなー。ディートリヒさん、そんなにお掃除上手だったっけ。床までピカピカだなんてあり得ないよ」
「1か月くらい前にお家に行っちゃダメ、って言ってたし、もしかして他に誰か住んでたりするー?」
ニヤニヤと笑いながらディートリヒににじり寄ってくる2人に、ディートリヒは反論することができない。