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太陽が咲いた

第3章 よく言えるよ


 季節は3月の末となり、エルフィを創りだしてから一月が経っていた。

「はー……また失敗か」

 ディートリヒはため息をついて、机の上に肘をついた。賢者の石の生成を始めてはみたものの、予想通り失敗続きなのだ。
 試験管立てに綺麗に立てられた試験管の底には黒ずんだ石が入っている。賢者の石は成功すると赤くなり、失敗すると黒くなるのだ。

「“黒は死を意味し、白は再生、赤は完全。黒と白が合わさりしとき、完全となる”……か。いったいどういう意味なんだ」

 ディートリヒは『命の構造』を読みなおしながら首をひねる。材料、手順は間違っていないので、『命の構造』そのものが間違っている可能性も考え始めていた。

――エルフィのときは成功したからその線は薄いと思うんだが……。

 ちらりとエルフィの方を見ると、彼女はクロッカスの花をじっと見つめていた。昨日、ディートリヒが家のそばに咲いていたので摘んできたものだった。
 エルフィに見せるには一番花がお手頃で、エルフィ自身も興味があるのか、ディートリヒが持ってくると少しだけ目を嬉しそうに輝かせる。
 そんな彼女を見るのが新鮮で、ついつい多めに花を持ってきてしまうのだ。そのせいで、いつの間にかフラスコの周りは花だらけだった。

「……花って不思議。どうしてこんなに色とりどりなんだろう」
「さあな。太陽の光に当たっているからなんじゃないか?」
「太陽……」

 自作の質素な服を身にまとったエルフィは、膝を抱えるようにして座り込んだ。ホムンクルスである彼女は、生まれながらにして人間に近い知識を持っている。
 だが、完璧ではない。知識だけでは補えない体験を彼女が望んでいることにディートリヒは気付いていた。
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