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太陽が咲いた

第2章 色とりどりな


 ディートリヒも口を閉ざすと『命の構造』を手に取り、賢者の石生成に必要な材料や手順を読みなおし始めた。沈黙に包まれていた室内を、ふとエルフィのささやき声が破る。

「ディートリヒ」
「……どうした?」
「なぜ私を創ったの?」
「そうだな……最初はいつも世話になってる村の人たちの怪我や病気が、より早く確実に治る方法を見つけ出したかったからだな」
「今は違うの?」
「いや、今も確実な治療法を探している。ただ、人体錬成はやめておこうと思う。君を創りだすのだけで相当な失敗と時間がかかるからな。非効率すぎる」

 苦笑するディートリヒに、エルフィは首をかしげている。

「あなたにとって、外の世界の人たちは『大切』なんだね」
「……あぁ」
「ねぇ、外の世界について話してくれる? 今はまだ見られなくても、あなたから見た世界を知りたいから」
「わかった。何から聞きたい?」
「太陽。どれくらい熱を持っているの?」

 ディートリヒは目を閉じて、普段当たり前のように頭上にある太陽を思い浮かべる。

「太陽は……季節によって温かさが変わるな。夏は焼けつくように熱いし、冬は寒さを取りはらうように温かい。もうすぐ3月で春に近づいているから、また冬とも夏とも違う温かさがあるな」

 不思議そうな顔をされてしまった。恐らく実感がわかないのだろう。

「外の世界は楽しい?」
「……概ねな。苦しいこともある。でも、そうだな」
「?」
 
 ディートリヒは目を閉じる。色とりどりな季節に満ちた世界は優しいだけじゃない。不愉快なことも苦しいこともある。
 それでも、アルベルトやアニータを始めとしたノイハイム村の人々を含め、大切なものも沢山ある。

「……悪くはない」

 そんな世界を、彼女に見せてあげたかった。

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