第2章 色とりどりな
「!」
驚いて目を見開くディートリヒの目の前で、しなびて汚い茶色のたんぽぽが見る見るうちに緑と黄の色鮮やかなものへと変わっていく。
数分も待たぬうちに、摘みたての状態へと変化したたんぽぽを見て、ディートリヒは言葉を失うしかない。
「これは……」
「1度だけ」
「?」
「死んだ一つのものに触れると、1度だけ命を吹き込ませることができるの」
くるくるとたんぽぽの花を回すエルフィ。ディートリヒは今まで見たことのない光景に混乱しそうになるが、そういうものなのだろう、と自分を納得させると話題を切り変えた。
「でも、それだけじゃ足りないだろう。なら、俺が持ってきてあげよう。他に何が見たいものはあるか?」
「太陽」
「え?」
さらりと真顔で言われ、一瞬混乱してしまう。
「あとは月とか木とか、海とか」
「……随分と大層なものをほしがるんだな」
はぁ、とため息をついてディートリヒは首を横に振った。実物がどんなものかを知らないから、こういうことを平気で言えるのだろう。
「君がそこから出られたら、いくらでも見せてあげられるんだが」
「…………」
エルフィは小さな頭を俯かせる。ただでさえ小さな体がますます小さく見えた。
「……見たいな」
か細い声で呟く彼女に、虚を突かれた表情になってしまう。ディートリヒは少し考え込むと、ふと思いついた顔をすると立ち上がった。
見違えるほどに綺麗になった作業台の上にある1冊の本を手に取る。パラパラとページをめくっていたが、ある個所に目を止めると顔を上げた。