第2章 色とりどりな
ディートリヒにとって双子のアルベルト、アニータを含め、ノイハイム村の人々は幼いころから一緒に過ごしてきた存在だ。
人付き合いの苦手なディートリヒが唯一安心して接することのできる人々でもあるのだ。たくさんの恩がある。そんな人々を見捨てるわけにはいかない。
「……まあ、罪悪感がないわけではないんだがな」
「罪悪感?」
「村の人たちは俺の医術は従来の医術だと思っている。錬金術がその土台にあることを知らない。騙しているみたいで、後ろめたいこともある。ただ、より確実な回復を得るためには今までのやり方では無理なんだ」
「うん」
「錬金術は扱いを間違えなければ、世の中がもっと便利になるものだ。それを一方的に排他しようとする考え方は好きじゃない」
ゆっくりと頭を横に振ると、ディートリヒはたんぽぽをぼんやりと見つめているエルフィの前に膝をついた。
「それより、そんなしなびた花を見て楽しいのか?」
「しなびた……?」
「あぁ。……そういえば君は本物を見たことがないんだったな。でもこれはいらないだろう」
ディートリヒはたんぽぽをつまむと、机の上に放り投げる。
「それ、貸して」
「? こんなしおれた花をどうするつもりだ」
「フラスコの中に入れて」
訝しく思うが、大人しくフラスコの蓋を開け、たんぽぽを入れてやる。エルフィはぼんやりとした表情で、その緑色の茎に小さな指で触れた。