第2章 色とりどりな
「……そんなことがあったんだ。ねぇ、もしもディートリヒが錬金術師だとわかって、その兵士たちに連れていかれたらどうなるの?」
「運が悪ければ地下牢送りか火炙りだ。運が良ければザックス子爵の専属錬金術師になる。錬金術そのものが法で禁止されているわけじゃない、ただ異端視されているだけだからな」
「……異端視されている錬金術師を自分の下に置いておくの?」
「大方金儲けのためだろう。石を金に変えることができれば、莫大な財産を得ることができからな。まったくもって不愉快な話だ」
錬金術師といっても色々なタイプがいる。
ディートリヒのように医学方面に突出した錬金術師もいれば、石を金に変えようと試みる者もいる。
実際に石を金に変えた者もいたそうだが、大した量にはならかった上に、金に変えるまでに使った金額は豪華な屋敷が買えるほどのものだったらしい。
そのため錬金術師の間では、賢者の石を使わずに石を金に変えるなどの研究は効率が悪すぎるということで廃れているといっても過言ではなかった。
だが、金に目がくらんだ連中がそんな説明を聞きいれるとは思えない。
「それに、ノイハイム村の人たちを見放すわけにはいかないからな」
噛みしめるように呟くと、エルフィの首が小さく横に傾いた。
ノイハイム村は都市やほかの大きな町から遠く離れた小さな村なので、腕のたつ医者がいないも同然だった。そんな村に救いの手を差し伸べたのはディートリヒの両親だった。
2人は医学方面の錬金術について密かに学び、お互いの故郷であるノイハイム村の医者として住んでいた。
残念ながら両親はディートリヒほど医学や錬金術に秀でていたわけではなかったが、それでも村人たちにとって代えがたい存在であったことは確かだった。
両親の死後はディートリヒがその役目を受け継ぎ、錬金術を取り入れた新しい医学で村人たちを助けている。
そして治療費として金銭を要求しない代わりに、食事や必要最低限の衣服などをもらっていた。