第2章 色とりどりな
「……物がいっぱいだったから。片づけられるとあなたは困る?」
暖炉に近づくと、エルフィが囁くように言った。膝を抱えて真っ赤な瞳でディートリヒを見上げている。彼女の目の前にはしなびたたんぽぽの花が浮いていた。
「リビングを片づけたのも君か?」
「そうだよ」
「部屋から出ていないのに掃除ができるんだな」
「この家の周りぐらいまでならできる」
ディートリヒは軽く頷くと鞄を置いて、暖炉の前に座る。頭の中に昼間の出来事がよみがえってきた。
あの兵士たちの取り調べは氷山の一角だろう。恐らくこれから本格的に錬金術師狩りが始まる。錬金術関連の本や器具はいざとなったら燃やすか埋めるかすればいい。
だが、エルフィはどうする。火を消しているにもかかわらずフラスコは常に熱を保っているし、何とか持ちあげられたとしても下手に落として割ってしまったら、エルフィは死んでしまう。
――何を考えているんだ俺は。所詮彼女はホムンクルス。人間とは違うというのに。
「どうしたの、ディートリヒ」
エルフィが感情の読めない表情で見つめていた。ディートリヒは大きくため息をつくと、ぽつぽつと昼間のことを話しだす。話を全て聞き終えても、エルフィは無表情のままだった。