第2章 色とりどりな
「えっと、僕らそろそろ帰るね」
「あ、あぁ……」
あっという間に微妙な空気になってしまい、ディートリヒは2人から目を逸らす。アルベルトとアニータが苦笑いをし、出て行こうと扉を開けたときだった。
「ディートリヒという村医者はここか?」
「!!」
髭をはやし、体格のがっしりとした男が壁のように2人の前に立ちはだかった。鎧を着て、剣を腰に差している男はじろりと小屋の中を見回す。
高圧的な視線に、アルベルトたちは大慌てでディートリヒの後ろに隠れた。男の後ろには部下と思われる男が数人待機している。彼らが付けている紋章からして、この地方一帯を治めている貴族の兵のようだ。
「貴様がディートリヒか?」
「……はい。何かご用で?」
ディートリヒはアニータの頭に手のひらを置きながら、警戒心を隠そうともせずに男を睨みつける。ディートリヒも長身な方だが、男はそれ以上でなおかつ恰幅が良いため遥かに高く見える。
「私はゲラルト。このレイオット地方一帯を統治されているザックス子爵のご命令により、地方近辺にいる医者や学者などの取り調べを行うこととなった」
「……取り調べ?」
「錬金術師ではないかを調べるのだ。下手に隠し立てしようものなら、すぐに捕らえるよう命令されている」
男が差し出した令状を、ディートリヒは訝しげな表情のまま無言で受け取る。
内容は概ねゲラルトが言ったことと同じだった。怪しげな方法による医療行為や金銭取得を減らすために、各村に兵士を派遣し調査し、何か問題のある人物を発見すれば即座に捕らえて処罰するとのこと。怪しげな方法とはもちろん錬金術や魔術のことだ。