第2章 色とりどりな
「ありがとう。ちょうど休憩しようと思っていた」
「午後からもお仕事?」
「あぁ。今日は夜までだ」
「そうなんだ……大変だね。あっ、後でディートリヒさんの家に掃除しに行っていい? 前に片づけてから2か月くらい経ってるから、絶対に物がごちゃごちゃしてるでしょ!」
アニータの言葉にディートリヒは硬直する。確かに居間や寝室だけじゃなく、地下室も物が乱雑に置かれている。
しかし、問題なのは自分のいない内に家に上がられて、地下室への扉を見つけられてしまうことだ。寝室には鍵がかけられないため、誰でも出入りができてしまう。
アニータもアルベルトもまだ子どもなので、地下室にある錬金術関連の本は見てもわからないだろう。だが、今はホムンクルスのエルフィがいる。
いくら2人が子どもでも、フラスコの中の人間が異質な存在であることぐらいわかる。彼女の存在を知られてしまうわけにはいかない。
「……いや、ダメだ」
「え?」
強張った表情で呟いたディートリヒにアルベルトが目を丸くする。
「ど、どうして?」
「家には行かないでくれ。わかったな」
突然張り詰めた雰囲気になったディートリヒに、2人は戸惑いの表情で身を寄せ合った。そんな2人を見て、ディートリヒはハッと表情を変え、ぎこちなく微笑む。
「あ、いや……あまり君たちに頼りすぎないで、たまには自分で自分のことくらいしたほうがいいと思ってだな」
「そ、そっか……」
「すまない。怖がらせるつもりはなかったんだ。……少し疲れているのかもしれない」
アルベルトとアニータは困った表情で顔を見合わせる。