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太陽が咲いた

第2章 色とりどりな


 晴れた2月末の朝。ディートリヒがエルフィを創りだしてから1週間が経っていた。

 ディートリヒは朝から仕事の準備を整えていた。月に1度行っている村人たちの診療日なのだ。普段から薬の配布や緊急の病気の治療は昼夜問わずに行っていたが、今日はノイハイム村だけではなくて近辺の村に住む患者もやってくるのだ。

「ねぇ、ディートリヒ」

 乱雑に物の散らかる地下室で必要な書類をまとめていたディートリヒは、突然の声にびくりと肩を揺らした。声の主がフラスコに入っているエルフィだと気付き、ふぅとため息をつく。

「そんなに驚かないでよ」
「悪いな、まだ君の存在に慣れてないんだ。普段、地下室には俺以外の人間なんていないから。……それで、何の用なんだ」
「今日は夜まで留守にするんだよね。自由に過ごしてもいい?」
「別に構わないが……君はそこから出られないんだろう? 自由に過ごすも何もないと思うが」

 ホムンクルスはフラスコの中から出ると死んでしまうと『命の構造』には書かれていた。実際にエルフィ自身からもフラスコ内でないと生きられないと聞いている。
 ディートリヒの訝しげな表情をエルフィは一瞥すると、目の前の本をじっと見つめた。すると本がふわふわと浮かび上がり、ページをエルフィの方に向けてめくり始めた。

「……それは?」
「外の人が魔法と呼んでいるもの」
「驚いたな。ホムンクルスが魔法を使えるとは本には載ってなかった」
「本に書いてあることが全てじゃないから……」

 何を考えているのかわからない表情でエルフィは呟く。すでに本の方に没頭してしまっているのか、ディートリヒが声をかけても反応しない。ため息をついて諦めたディートリヒは薬品の入った鞄を持ち、地下室の扉を開ける。

「エルフィ。来ないだろうとは思うが……仮に誰か来ても、反応せずに静かにしていること。あと、魔法はすぐにやめるんだ。わかったか?」
「…………」

 返事はないが、エルフィの小さな頭が縦に動いたのを見て、ディートリヒは扉を閉める。普段はかけない鍵をしっかりとかけ、地上への階段を上った。
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