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太陽が咲いた

第1章 たんぽぽ


「……君の名前は?」
「ないよ」
「なら、付けてあげよう」

 ディートリヒは少しだけ考え込むと、小さく「エルフィ」と呟いた。

「そう、君の名前はエルフィにしよう」
「エルフィ……」

 彼女はこてん、と首をかしげて言葉を反復する。しばらく何かを考えているようだったが、彼女は小さな頭を縦に振った。

「いいと思う」
「そうか。それなら良かった」
「ありがとう、名前を付けてくれて」
「……いや、いいんだ」

 まさか礼を言われるとは思っていなかったディートリヒは恥ずかしげに目を逸らす。
 照れ隠しのために、先ほど自分が落としてしまった器具や本を片づけていると、1冊の本の間からするりと薄く乾燥した花が落ちた。

「それは……?」
「あぁ、たんぽぽの押し花だ。薬の調合に使っていたんだが余ったんでね。それを本の間に挟んでおいたんだ」
「たんぽぽ……始めて見た」
「色んなことを知っているんじゃないのか?」
「知っているけど、見たことはないよ。今生まれたばかりだから……」

 目を伏せて小さな声で言う彼女に、ディートリヒは「確かにそうだな」と返した。エルフィに気付かれないように目を向けると、彼女は膝を抱えて座ったまま目を閉じている。 
 銀色の髪に赤い目と幻想的な雰囲気を醸し出している彼女は、小さくとも紛れもない人間だった。

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