第2章 【裏】恋のスパイス/ナポレオン・ボナパルト
《余談》
ひと月程前にヴァンパイアの屋敷に迷い込んだ人間、逢崎遥香を部屋に招こうとするも、恋人であるナポレオンにそれを阻まれ、一人自室へと戻ったアーサーは普段自身が著書を執筆する椅子に腰掛けると、嬉しそうに頬を綻ばせた。
「いやー、まさかあんな顔が見られるなんてね。」
〝あんな顔〟というのは、遥香の恋人であるナポレオンの嫉妬と焦りが入り交じった表情を指していた。
生前は革命家とし、英雄と謳われたナポレオン・ボナパルト。野心家であり、横暴で、傲慢な人格を想像していたが、実際のナポレオンは心優しく、幾多の人間の命を手に掛けたとは思えない程温厚な人物であった。義理堅く、一癖も二癖もある屋敷の住人の中では、理性的でまともな人物であると言っても過言では無いだろう。
アーサーは先程書き終えたばかりのシャーロックシリーズを手に取り、それをそのままゴミ箱へと投げ入れると、再びペンを取った。
「さて、珍しい物も見れたし、書き直しますか。」
後にこの時に執筆した作品は、アーサー・コナン・ドイルとしては珍しく恋愛を主題とす、驚嘆な著書として名を残す事になるのはそれから何百年か先の話である。
fin.