第5章 嘘つきは大嫌い【今吉翔一】
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寄せ書きやら、写真やら。
そんなものから逃れるために、ここにいる。
生憎、【親友】と呼べる親しい友なんていない。
あの場に、私はキチガイなのだ。
『────誰もいない・・・』
教室・・・なのに・・・。
誰もいないなんて。
・・・いや、私だって何の用も無しに来たわけではない。
『・・・あったあった』
ノート・・・忘れてたんだよね。
パラパラとめくる数学のノート。
最後の方には、一ページにも及ぶ長い落書き。
『・・・今吉先生・・・』
結局。
あの人は謎だ。
謎の人だ。よくわからない。
『ははっ・・・落書きだなぁ』
こんなもの、よく書けたな。授業中に。
まぁ、でも。今吉先生は後ろの方の席にはあんまり来ないから。
それが、救いだったかな。
【何者?】
【メガネの奥は笑ってない】
【提出物、忘れなし・・・】
【なんで?】
一言ずつ疑問が浮かんでいる。
・・・楽しいなぁ、こういうの。
『・・・・・・あれ?』
下の・・・方。
【大袈裟やな】
『───っ!?』
────・・・今吉先生の、字だ。
涙腺が緩んで、視界が歪んで。
どうして?
どうして?
どうしてここに・・・
駆け出す足。
響く足音。
今この校舎内には・・・きっと───。
────私達、だけだ。
【何者、なんて訊かれてもな、答えられるわけないやろ】
【そんなおっきなもんやないで、ワシ】
【ただのこの思いも伝えられてへん奴や】
─────そんなこと、ない。
そんなこと言ったら、私もイカれてるよ。
《お前らが手を差し伸べたから、ワシも手を伸ばしたんや》
・・・嘘つき。
嘘じゃないの、そんなの。
きっと私が手を伸ばしたって───
───あっさり拒否するだけでしょうよ。