第5章 嘘つきは大嫌い【今吉翔一】
維side──────────────
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あの人は昔から天才だった。
《真兄、またオール5?》
《当たり前だろ》
《・・・まぁ、猫被ってんだから当たり前だよね》
欺くのがとても巧かった。
猫を被って、それを当たり前のように演じる。
────そんな従兄を、尊敬していた。
《・・・真兄?》
でも、ある日。
《・・・維》
彼の目は、変わっていた。
優等生の顔が剥がれた瞬間、
目の光がなくなって虚無になる。
《・・・大丈夫?》
そんな声も届いていなそうで怖い。
《・・・何かあった?》
《・・・何かあった、か・・・》
真兄がぽつりと呟く。
《────俺には、お前だけだ》
そう呟いて、頭を撫でてくれる。
真兄は昔から悪童だったけど、
こうして撫でてくれるから好きだ。
猫みたいな気分になる。
《───当たり前じゃん》
───・・・この笑顔は、下手、かな?
・・・あぁ、なんか・・・真兄の体温が蘇る気がする。
冷たくもないけど、温かくもない。
丁度いいのに、不安になる。
お父さんとは、まるで違っていた。
額に重みが加わって、温かくなる。
・・・落ち着く・・・────。