第5章 嘘つきは大嫌い【今吉翔一】
今吉side──────────---
・・・轟音、やった。
ざわめき群がる奴等を掻き分けて、
惨憺(さんたん)たる現場を見てしもうた。
「・・・この下にいるの、柚井か?」
「は、はい・・・」
リング直撃。
そんなのあるかいな、て思っとったけど、ほんまやった。
痛々しく、額や頬が赤く晴れとる。
だが、幸いに出血はなさそうや。
キャプテンや選手らが声を張り上げる。
リングをずらす手が、震えた。
・・・あぁ、アカンな。
───ちょっとだけ、ビビっとるな。
「・・・保健医の先生呼んできてくれへん?
あとタオルとか無いか?」
バタバタと騒がしく動く足。
暫くして保健医の先生が来はるまで、
俺はその場を動くことが出来へんかった。
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「・・・色々な所を打撲してるみたいです。
あと、軽い脳震盪」
「・・・そやったんですか」
都内の病院に運ばれた柚井は、その日の内に学校に帰ってきた。
まだ眠ってるみたいやから、
このまま親御さんが迎えに来るまで保健室で寝るらしい。
ちょっとだけ様子を見ていて下さい
と言い、保健室を出ていく保健医。
電話でもしてくるんかな。
「・・・」
『・・・』
・・・普通に寝とる。
こうして見ると普通の高校生やのに、目を開いた瞬間人が変わるんやからなぁ。
自分、ぎょーさん悪いことしてきたからその罰やないのか?
そう考えて、振り払った。
不謹慎や、さすがに。
・・・アホかいな。まだ・・・テンパっとるんか・・・。
柚井の額に軽く手を乗せる。
熱くも冷たくもない、丁度いい体温やった。
「・・・柚井・・・。
お前が次こうなる前に、俺が動かんとな」
そないな声も、虚しいだけや。