第5章 嘘つきは大嫌い【今吉翔一】
今吉side──────────---
───あ~・・・デジャヴやわ。
男バス部室の扉の隙間から見えた笑顔は、それはそれはもう悪女やった。
そんなことは言うても、柚井は容姿端麗やからそんな顔も似合ってまう。
それが恐ろしいんや。
「────ええ顔しとるやないか、自分」
ほんま、ええ顔しとるで。
───見惚れるくらいな。
『・・・何のことですか?』
ようやっと永遠のような一瞬が終わり、重々しく口を開いきよった柚井。
それも・・・聞いたことある台詞やわ。
「良い性格しとるで、自分。
そんなんでよう生きてこれたな」
教師としての説教やない。
男子一人退部させたからといって、
それを怒るつもりもない。
退部するかせんかは自分自身や。
こいつはそれに関係あらへんからなぁ。
『・・・あの、先生が何を言っているのかさっぱり・・・』
「見とったで、全部。
・・・誰かさんに似て、用意周到やわ」
『・・・』
黙りよった。
長い沈黙を破ったのは、柚井の口。
『───知って、どうするんですか?
周りに告げ口なさるんですか?』
・・・、
「っぶ・・・ッ」
『!?』
あー、すまんすまん。
ほんと、デジャヴ過ぎて腹が痛いわ。
あんた、花宮と同じ脳みそで出来てるんちゃう?
そしてワシも、あのときと同じ言葉を繰り返す。
「まさか。ただ俺は忠告しに来ただけや」
『・・・?』
意味がわからん、って顔やな。
まぁ、優等生が実は猫被りやったーなんてネタ、美味しくないわけあらへんもんなぁ?
・・・でもな、そんなことやない。
「・・・次、バレたらつまらんで。
もうお痛はせんとき。」
あのときとおんなじ言葉や。
花宮のごっつい悪い顔が目に浮かぶ。
せや・・・こいつはあんま腹の探りあいはせんかったな。
花宮みたいにあんま執着がないように思える。
────柚井の目から急激に光が消えた。
『・・・うるさいな』
仮にも教師相手やのに。
その言葉は、この世界に向けてるもんみたいやった。