第5章 嘘つきは大嫌い【今吉翔一】
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それは、唐突に起きた。
「っ!? うげぇ、何このドリンク!?」
「は?」
選手の一人が、ドリンクを飲んだ瞬間に吐き出した。
「汚ぇよお前~!!」
「いや飲んでみろって・・・
・・・あー・・・柚井!」
『! はい』
何故か気の毒そうに名を呼ぶ選手。
そして、そのドリンクを私に手渡した。
「このドリンク・・・めっちゃ粉っぽいんだよね・・・」
『え・・・』
蓋を外して中身を見ると、確かに粉が目に見えるほど粉っぽい。
『す、すみません!!!!!』
「え、あ、いや」
「んー、どしたー?」
ぞろぞろと群れる選手達。
私は眉を下げるしかなかった。
『本当・・・本当にすみません先輩・・・作り直して来ます!
・・・あ、喉とか大丈夫ですか?』
「あ、うん」
曖昧に頷いた先輩に、野次が飛ぶ。
「おいおい、柚井がそんなヘマするわけねーだろー?」
「確かになー。もし、しちまってたとしても、許してやれよ。
柚井も疲れてんだよ。なぁ?」
『い、いえ・・・私の責任感が無いからなんです! ごめんなさい・・・』
────────なんて、
─────本心じゃないに決まってるじゃない。バカじゃないの?
野次を飛ばされた先輩は、気まずそうに練習に戻る。
その姿に近づいた者は、誰一人と居なくて。
───結局、退部した。
あんなの、わざとに決まってるじゃない。
あの先輩はうるさかったし、練習も真面目にやらなかった。
周りの人も色々言っていたみたいだし、私が後処理をしてあげただけ。
・・・というのも、建前かもしれない。
ただ、刺激が欲しかった・・・だけかも。
退屈な日常に飽きて、この出来事を理由に楽しんだだけかも。
・・・それでも、別にいい。
どうせ、誰も私を疑ったりしない。
「────ええ顔しとるやないか、自分」
────!!!?
誰もいないはずの部室に、
私以外の声が響く。
『っえ・・・』
───今吉先生・・・。