第3章 記憶の中の彼女【赤司 征十郎】
「・・・柚井、こっちに来てくれ」
『え、先生が使ってる洗濯機、昔死んだ婆ちゃんのと同じだ・・・』
「柚井」
『・・・・・・やだよ』
「え?」
こちらに背を向けて、洗濯機に手を掛けながら柚井は告げた。
彼女のブレスレットが チリン と鳴る。
『嫌だよ、私。
もう先生の傍には行けない』
冷や水を浴びた気分。
脳が凍ったように冷たく痛く、
心臓までもを凍らせてしまいそうだった。
「・・・俺は」
『先生がよくても、私がダメなの』
遮られる言葉。
もうこれ以上何も言わせない、
という雰囲気だ。
『・・・この家に連れてこられたとき思った。
私、先生とは逢う筈無かったのにって』
「え?」
彼女は振り向く。
何故かそのとき、ブレスレットは鳴らなかった。
そして、さも当然というように彼女は続けた。
『私、先生には相応しくない。
そりゃ、年だって違いすぎるし、趣味も性格も違いすぎる訳だし。
だけど、そういう事じゃなくて。
私、先生には』
息を吐く音が聞こえて、
声が一段と暗くなった。
柚井との距離が、小さくなる。
『・・・合わないよ。
最初から、逢わなきゃよかった。
この高校に入らなきゃよかった。
なのに・・・』
何で
の言葉を包む。
嗚咽を漏らす彼女を抱き寄せて、
もっと腕に力を込めた。
相応しくないか、どうかなんて。
「・・・お前が決めることじゃないよ」
勿論、第三者が決めることでもない。
相手だ。
相手が、どう思うかだ。
「・・・相応しくないかどうかなんて、正直言えばくだらない。
だけど、それで悩んで涙を流すことだってあるんだ。
お前の気持ちは、すごく嬉しいよ」
力が弱くなった彼女を抱き上げた。
洗濯機の蓋の上に座らせて、彼女の顔を見つめる。
『・・・せんせ』
柚井が少し微笑む
『嬉しくなくて、いいの。
・・・嬉しくなくていいから、私のことを、』
その先の言葉は、聞けなくなって。
涙が溢れ出す彼女の頬を、撫でることしか出来なかった。