第3章 記憶の中の彼女【赤司 征十郎】
そのうち聞こえてきたのは悲痛な叫びだった。
『・・・ごめんなさい』
「・・・あぁ」
抱き寄せたとき甘い香りが漂う。
『・・・好きになって、ごめんなさい』
「・・・あぁ」
涙は冷たい。
なのに、どこまでも温かく感じた。
「・・・俺も、謝らなきゃな」
そう言ったけれど、それはキスの後でいい。
いくらでも言おう。
いくらでも後悔しよう。
『っん・・・ぁ・・・!?』
「すまない。痛かっただろう」
赤く腫れた傷口を、何度も何度も上書きする。
『・・・そ、そんなとこ、いいから。
・・・その』
「ん?」
本当は気付いてるが、あえて言わないでおこう。
『・・・っわかってるでしょ、絶対!』
「ふっ・・・さぁな」
彼女のブレスレットが美しく響く。
『・・・覚えてる?』
「え?」
『・・・あの日、先生に初めて渡したタオル』
「!」
覚えていたのか。
『あれね・・・私のタオルなの』
「え・・・」
『何とかして先生の記憶に残りたくて、何かないかなーって必死になったんだよ』
可笑しそうに、楽しそうに、
目の前の維は笑う。
その笑顔は、俺の中に温かく残り続けた。
【終】