第3章 記憶の中の彼女【赤司 征十郎】
ドン! と彼女の肩を叩く。
車内に倒れた彼女は唖然としていた。
『・・・っな、』
「何も言うな」
俺にはもう、教師の顔なんて出来っこない。
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『・・・先生の家? ・・・これが?』
もう遅い時間だと言うのにきらびやかに灯る明かりの数々。
マンションと言うのは、一人一人の明かりが目に入ってくるから好きじゃない。
『・・・何階? まさかの最上階?』
「・・・惜しいな」
エレベーターに乗り込んで、【29】の数字を押す。
あー! 惜しいね!
そんな楽しそうな声が隣から聞こえてきた。
29階、2901号室。
最上階は宴会やパーティーに使われるため住むことは出来ない。
そして大家が住んで貸し切っている。
『所詮、金の世の中なんだねー』
「・・・どこで覚えたそんな言葉」
『あのね、もう華の女子高生ですよ?
世の中の仕組みはもう分からないと』
えぐい話になりそうだから苦笑いで誤魔化しておいた。
それにしても・・・
『ふぉぉぉ!!!! 何この解放感!
新しい転勤先みたいな空気がする!』
「何を言っているんだ。
・・・どこで覚えるんだ、そんなこと」
『やだな、もう高校生なんだから社会の仕組みくらい覚えないと』
もう何処から突っ込めばいいのか分からなくなってきた。
・・・脱線しかけていたが。
それにしても、だ。
彼女は、【緊張感】というものが無いのか?
さっきまであんなに顔を真っ赤にしていたのに、今は別の意味で興奮している。
『ねね! これって高いやつだよね!
ニチョリで特集してた!』
「ニチョリでは買えないものだよ」
『うわさらっと自慢したよこの人』
某家電用具専門店の名前が出てきて、もう緊張感の欠片もないと確信した。
これでは何のために連れてきたのか分からなくなる。
「・・・柚井」
『何? ちょ、待って。これって人がダメになるソファーだよね』
「そうだが。・・・ちょっとこっちに」
『お願い座らせて! 一生のお願い!』
「・・・いいよ」
何かもうやる気なくなりそうだなパトラッシュ。
某家電用具専門店2に売っている【人がダメになるソファー】。
後でいくらでも座らせてやるから今は話を聞いて欲しい。