第3章 記憶の中の彼女【赤司 征十郎】
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『んっ・・・、・・・っえ?』
目が覚めたとき、そこは自分の部屋。
夢にまで見た、先生の腕の中では無かった。
『・・・なーんだ・・・』
所詮、先生も男だったんだ。
・・・私は・・・気に入られてただけ?
少し腕をずらすと、
カサ
と渇いた音。
目を向けると、丁寧に折り畳まれた紙切れが置かれていた。
机にはスポーツドリンクとオレンジ。
お母さんが持ってきてくれたんだろう。
薄暗い部屋でベッドサイドの明かりをつける。
本当に、本当に丁寧に折り畳まれたそれは、何故か先生を予感させた。
『・・・先生?』
【忘れてくれ、とまでは言わないが。
怖い思いをさせてしまってすまない。
出来れば、忘れてくれ】
『・・・・・・何、それ』
あんなことまでしといて、忘れて?
大きい期待を膨らませといて、何よその言い草。
・・・信じらんない。
信じらんないよ先生。
私、どうすればいいの。
どうして私、
───そんな信じらんない人を好きになっちゃったの。
信じらんない、サイテーだよ先生。
この気持ち、どうすればいいのよ。
「・・・維ー? 起きたのー?
さっき赤司先生が送ってくださったのよ。
明日、お礼言いなさいね」
ドア一枚を隔てただけの筈なのに、
そんな声は小さく、か細い。
・・・お礼、なんて。
『・・・言えっこないよ』
部屋を飛び出た瞬間に驚いた母の声。
何かを後ろで叫んでいるけど、構わず私は走り出した。
先生? 私、
初めて先生に失望した。
忘れて、なんて一生しないからね。
絶対、言ってやる。
先生が自分でしたことに、後悔させてやる。