第3章 記憶の中の彼女【赤司 征十郎】
赤司side─────────────
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柚井が元気に走り出したその後の事。
立ち竦んだ男は、呆然としたまま俺を見つめていた。
「・・・何か」
「・・・何で俺が受験生だ、って・・・」
「あぁ・・・」
その事。
まさか君は、気付いていないのか?
「君のダサいまでの腰パン、下げすぎて名札が顔を出しているよ」
「っう、えっ!!!!!?」
気付いていなかったのか。
「その私立高校の今年の3年生のカラーは青。君のその名前の下のラインも青だろう?」
「・・・っ・・・!?」
ショックすぎて声も出ないのか?
「こんな所で油売っていないで、家に帰って勉強をしろ。
君は容姿も良いんだから、成績まで良くなったら無敵じゃないか」
「!」
目を見開いてこちらを見つめる。
自分のすべき事をしっかり見つめ直すんだ。
「・・・あざすっ」
「あぁ。いえいえ」
何だか照れたように立ち去る青年。
全く・・・単純だな。
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『お待たせ先生ー!
って、待ってないよね』
「ふっ・・・面白いね、君は」
先生の方が面白いよ?
そう笑ったのは彼女。
どういう意味だそれは
珍しくむくれたのは俺。
何だか当たり前のように隣を歩いているが、恋人ではない。
・・・だが、こんな時間が幸せだと思った。
「・・・あの服のままの方が良かったな」
『? なんか言った?』
「何も」
そんな呟きも聞こえない距離。
二人の間は、丁度15㎝ほど。定規一本、人一人分くらいだ。
この隙間は、埋められないのかな。
俺が教師じゃなければ、埋められたかもしれない。
『・・・先生?』
振り向く彼女から香る甘い香り。
すまない、柚井。
俺はもう、止められないかもしれない。