第3章 記憶の中の彼女【赤司 征十郎】
赤司side──────────---
先生て、恋するんですか?
「・・・あぁ。したよ」
その、笑顔。
相手が泣きそうな時にする笑顔だろう?
知っているよ
あの日から、ずっと。
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あの日。俺達が負けたあの日。
頬を伝う涙の意味を、理解できなかった。
〔・・・征ちゃん?〕
あぁ、分かっている。
敗者は、此処に居るべきでは無い。
立ち去るべきなのだ。
だが・・・
〔・・・もう少し、居たい・・・な〕
───これくらい、許して貰えないだろうか。
《・・・これ》
〔、え?〕
人が行き交う廊下で、
彼女の持つ鈴の音が鳴り響いた。
揺れる髪。
凛と佇む細い足。
少し強気な猫目。
・・・正直、驚いた。
《・・・落ちたよ》
ずい、と。
タオルが差し出される。
〔あ、あぁ。ありがとう〕
お礼を告げて、笑いかけた。
・・・あぁ。あの時の彼女の言葉は今では笑えるな。
《・・・何で笑ってんの》
眉間に眉を寄せて睨む瞳。
ポケットに突っ込んだ手が、拳を握ったのが分かった。
《悔しいなら笑わない方がいいよ》
泣けばいい
小さな口が、静かに動く。
鈴が鳴った。
〔・・・っあぁ。・・・ありがとう〕
彼女が歪む。
ポタポタと垂れた滴は、バッシュに染みを作った。
《・・・戦ってくれて、ありがとう》
そう笑った彼女は、誰だったのか。
寄せた眉を緩めて、微笑む彼女。
確かに、何かを撃ち抜かれた。
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小学生・・・いや、中学生くらいだったな。
あれからもう6年も経つから・・・今はもう高校3年生か。きっと。
猫目。
真っ赤なパーカー。
揺れる髪。
ブレスレットから鳴る鈴の音。
差し出す掌。
全て、ちゃんと覚えているよ。
辛くても、彼女の言葉と笑顔で立ち直れた。
ロリコン、と言われても仕方ないのかもしれない。
だが、俺は成長した彼女を迎えにいきたい。行けるものなら。
会ったら、あの時のように笑ってくれるだろうか───・・・