第2章 そんな毎日が幸せだった。【伊月 俊】
伊月side
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「・・・なぁ、・・・柚井」
『・・・っひ・・・うっ・・・』
俺の服に縋るように俯く彼女。
小さくて、脆くて。
人通りがない綺麗な道上。
夕方でも、夜でもないような、曖昧な明かり。
彼女の泣き声が木霊して、
彼女の涙だけが滴ってる。
そんな彼女を抱き起こして、小さな声で呼び掛ける。
「・・・なぁ、柚井」
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維side
怒られるかな。
呆れられるかな。
それとも、
少しだけ・・・心配してくれるかな。
落ちそうになった瞬間に、
ふわっと浮かぶ体。
重力に逆らって引き寄せられて。
先生の腕の中に引き寄せられた。
『・・・っ・・・』
その瞬間、溢れ出す。
怖かった、怖かったけど・・・
・・・絶対、呆れられた。
嫌われちゃったかな。
「・・・なぁ、柚井」
『! っ・・・ひ・・・くっ・・・』
耳元に降る声は痛いほどに優しい。
残酷なほどに。
「・・・柚井、そのままで良いから聞いて」
『っ・・・』
抱き締められたまま、鼓膜が燃えそうなほど優しく熱い声が囁く。
「・・・お前が、可哀想だって・・・最初は思ってた」
やっぱり
「・・・だけど、お前は全然違くてさ。
なんか・・・こっちが元気もらっちゃって」
そんなことない
私の方が、
「・・・前から、ずっと。
目で追ってるし、見つけたら嬉しくなるし。
笑ったら笑い返してくれたりさ。
寝てるの見つけると「あぁまたか」とか」
そんな毎日が、幸せだったんだよ
『っ・・・』
私だって───
溢れ出す涙は止まらない。
一粒許せば、もう止まらない。
涙でくしゃくしゃの顔に、手が添えられる。
「・・・柚井、俺」
そう言葉を切って、困ったように笑う先生。
「・・・まずいな」
こんなに緊張するの、久しぶりだ
そんな風に笑う先生。
『・・・バカ』
ぐっと服を引き寄せて、重なる唇。
熱くて、涙でしょっぱくて。
少し、最悪な味。
「・・・っ、好きだよ」
『・・・っへへ』
項に添えられた手が私を寄せる。
目を瞑る瞬間に見えた先生の顔は、
見たこともない男の人だった。
「・・・柚井」