第2章 そんな毎日が幸せだった。【伊月 俊】
知ってる。この気持ち。
坂を駆け下りて、小道を走った。
人通りの多い所を避けて、
とにかく走って、走った。
知ってる、知ってる。知ってるよ。
知ってる、けど・・・
ダメだよ・・・
先生に恋した、なんて。
先生が好きだ、なんて。
諦めなきゃ・・・会わなきゃよかった。
先生の裏のカオなんて、知らなきゃよかった。
嫌だ、嫌だ。
何で・・・・・・先生なの。
伊月side──────────---
「柚井!」
「え、ちょ、伊月君!?」
「カントク、悪いけど今はいい。帰ってもらってもいい?」
「え、うん・・・。ちゃんと食べなさいよ?」
「わかってる」
なに!? わかってないな、にわかは!
・・・じゃない。行かないと・・・!
なんで、飛び出した?
なんで、携帯も持たないで・・・。
「柚井・・・っ」
こんなに全力で走り出したのは、
あの日以来だ。
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維side
嫌だ、嫌だ、嫌だ・・・。
なんで、どうして・・・
先生に、会わなきゃ良かった。
あの綺麗な人誰?
なんて、
訊けない。
私に知る権利はないから。
よく知らない優越感に浸って、
先生のこんな顔知ってるの私だけなんだって・・・
そんなバカな気持ちになってたの、私だけ。
先生は、私に興味なんて持ってない。
ただ可哀想に映ったから。
高校生で一人暮らしが珍しかったから。
そんな理由。
そんな好奇心で、先生は私に近づいたの・・・?
・・・そんな好奇心、やめてほしい。
優しさ、なんて要らないの。
私は、ただ・・・。
伊月先生が担任になって毎日浮き足立ってて、
伊月先生の数学のときだけわざと寝て、後で聞きに行って。
そんな毎日で幸せだったの。
私は先生に想いを寄せちゃったバカなんだ───
「柚井!」
『!! あっ!?』
ズルッ。と。
足が滑る。
靴、ちゃんと履けばよかった。
靴が足から離れて、宙に浮く。
体が傾いていく。
ガードレールの下に。重力と共に傾いていく。
・・・ねぇ、先生。
・・・好きになっちゃって、ごめんね。