第2章 そんな毎日が幸せだった。【伊月 俊】
伊月side─────────────
ほかほかと内側から熱が上がっていく感じ。
湯煙が段々と広がっていって、シャンプーの位置さえも霞んでいった。
少しだけ、他人の体温が残っている感じがする。
「・・・この部屋」
ふっと目を細めてみると、ソファーで俯く少女が瞼の裏に映る。
「・・・こんなに狭かったのか」
──────────────---
「おーい、柚井・・・、・・・!」
ソファーに寝転がる影。
倒れているのかと思ったけれど、ただ寝ているだけのようだった。
「・・・柚井? こんなとこで寝てないで部屋行ったら?」
揺さぶってみるけど起きない。
そのふとした瞬間に、目に入ってしまった。
「・・・っ・・・、無防備」
守りたいだのなんだのという気持ちだけで招き入れたけれど、そんな気持ちだったから狼狽えてしまった。
上下する膨らみ。
動く喉元。
さらさらと揺れる髪。
・・・こいつだって、ちゃんと女子なんだよ。
「・・・風邪、ひくぞ」
もう揺さぶるのは止めて、隣に腰掛けた。
起きる気配、微塵もない。
もうなんだか起きないような気がして、少し・・・焦るけど。
だけど、コーヒーを飲んでずっと待っていた。
点けたテレビの先で笑う外国人芸人が残酷に見えて。
確かに、生きるためには金だって必要だ。名誉だって、権力だって。
ちゃんとした家に住んでる俺が言えることでもないけど、それだけじゃないと思うんだ。生きる、って。
今日、柚井が来て分かった。
ちゃんとした家だって、どこだって、一人だったら埋められないものだってある。
笑顔がすぐ傍にあって、
返ってくる声があって、
すれ違ってくれる人がいて。
それが、本当の生きる証なんじゃないかって・・・。
なんか、ポエムっぽいけど。
でも、本当のことじゃないかな。
「・・・お前が来て、分かったんだ。
ありがとうな」
撫でた頬はちゃんとした熱があって。
それだけのことなのに、少し頬が緩む自分が居た。