第9章 言い過ぎじゃないっスか?【黄瀬涼太】
その後も、維っちは、そのバク転男を褒め続けていた。
さらに!
他のアーティストまで褒め始めた!
‥‥いや、いいんスけど‥‥
‥‥やっぱ、面白くないっスよね。
「‥‥あはは、いい足してる」
しかも褒める部分が特殊!
俺にはそんなこと言ったことないのに!
「‥‥維っち」
「んー? あ、ごめん、これ見てから‥‥」
「‥‥‥」
どんどん顔が渋くなっていってる気がする。
なんでそんなに褒める部分出てくるんスか‥‥俺にだって言って欲しいっス。
「あはは‥‥‥ごめん、何?」
「ん」
「‥‥え?」
「それ」
「お肉?」
「食べさせて欲しいっス」
「‥‥はい」
違くて!
「あーんして欲しいっス」
「‥‥‥自分で食べてよ」
「いいから!」
自分でも意地を張ってることは分かっていた。
でも、何でか面白くない。
維っちの興味が俺に移ればいいのに。
「は、はい‥‥」
「‥‥‥美味しいっス」
程よい卵がさらに美味しくさせてる。
維っちは、どうやら何が何だか分かっていない様子。
もー‥‥。
「‥‥維っち」
「ん?」
「‥‥俺にも」
「へ?」
俺にも、言って欲しい。
もうちょっと褒めてくれたっていいんスよ。
いっつも、叱られてばっかりだから。
「‥‥! そっか、ごめんね‥‥」
「え」
「涼太と一緒なんだから、もっと考えるべきだった」
「‥‥維っち」
「ごめんね‥‥」
「いや! 謝らなくていいんスよ!」
維っち、分かってくれたんスね!
いやー、さすが俺の恋人!
「今度からもうちょっと考えるね!」
「へ?」
‥‥‥今度から?
「え?」
「へ?」
‥‥‥何の話?
‥‥‥あ、なんか察したっス。
「え‥‥牛肉の話じゃないの?」
「違う」
───だと思ったっっ!!!!
維っちがこんなことでいちいち謝ってくれる訳ねーっスもん!
もうちょっと早く気づけばよかった‥‥。
「え? ‥‥涼太、お肉好きだからもっと食べたかった訳じゃないの?」
「違うっス」
「ええ‥‥」
やっぱ分かってない。
さすが俺の恋人。
「言いっスよ、もう。終わったことっスから」
「え‥‥ええ?」
あわあわし始める維っち。
なんだこの可愛い生き物‥‥。