第8章 シンデレラになりたくて。【灰崎 祥吾】
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「ただいまー‥‥」
‥‥‥居ない。
まぁ、当たり前か。
さっき、歩いてたんだもんね。
‥‥どうした、どうしたの私。
痛い。苦しい。
涙が込み上げてくる。
どうして‥‥‥
───いやいや、もう分かってるでしょ。
分かってる。知ってる。
でも、認めたところでどうしようもない。
灰崎が、一人の女に興味をもつわけがない。
ひとつの所に留まるなんて、灰崎らしくないもの。
だから、普通だよ。当たり前。
「‥‥‥っ‥‥うっ‥‥」
やけに暗くて、広い部屋。
いつもより、広く感じる。
たった一日、今日の朝、灰崎がいてくれただけで、少し、明るく感じてたのに。
‥‥バカだなぁ、私。
灰崎はただの暇潰しをしてるだけだよ。
私も流されてるだけだよ。
他の女の人と、同じように。
ああもう、そう考えるだけでキツい。
灰崎は、少しだけ、私を救ってくれていた。
灰崎side─────---
うわ‥‥落ち着かねえ。
久々だからか? 情けねえ奴。
雪が歩く速度を遅くしてる気がした。
その時、一瞬だが、変なことを思いついてしまった。
帰るな───って、言ってんのか──って。
変だろ? 俺も変だと思う。
なんでそんなこと思ったんだ。
「‥‥‥鍵‥‥」
ポケットを探って小さな鍵を見つける。
鼻が鳴る。きっとこのドアの向こうはあったけーんだろうな。
あいつ‥‥どんな顔すっかな。
「───おい」
扉を開けると、リビングでテレビを見ながら携帯を弄っているあいつがいた。
「‥‥あ、おかえ‥‥‥っええ?」
「んだよ」
いや、分かってる。その反応を待ってたんだからな。
「か、髪、髪‥‥っ!?」
「うっせーな‥‥」
「だって、っ、え?」
「‥‥クリスマスだからな。明後日ぐれーには元に戻す」
「そ、そう‥‥」
久々に色を染め直した髪。
なんか、こいつに会ったら、昔みてーに地毛にしてもいいか、と思った。
ずっと縛ってた髪も、ちょっと切った。
「ひよこじゃん! かわいー」
「うっせ! 触んなっ!」
「‥‥‥ごめん」
は?
ちょっとからかっただけなのに、あからさまに落ち込んでいる。
そんなに落ち込むことかァ?
「‥‥あの人には触らせてたのに」
「は?」