第8章 シンデレラになりたくて。【灰崎 祥吾】
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「──ねー、ママー! きょうのよるはおにくがいい!」
「はいはい、買ってこうね」
‥‥幸せそうだ。
あんなにはしゃいで、プレゼントは何だったんだろう。
今日も繁盛している店内で、私は暇なしだった。
いいことだけど、やっぱりテンパる。
人が多いし、飲食店のバイトってやっぱり体力勝負だ。
やることも多いし、笑顔も大事だし‥‥
「お次のお客さまどうぞー!」
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「今日もありがとうね、柚井ちゃん。
明日は休みでいいよ」
「え‥‥?」
「昨日と今日、こんなに働いてくれたんだからっ! 明日くらいクリスマス気分で楽しんでみなさいよ!」
いや明日クリスマスじゃない‥‥。
でも、嬉しい。
ここのところ、休みなかったから‥‥。
明日‥‥何しようかな。
活気のある店長に別れを告げて、極寒へと足を踏み入れる。
いつのまにか降っていた雪を、スニーカーで踏みしめながら歩いた。
楽しい。雪って、大変だけど楽しいよね。
商店街に差し掛かったとき、あるものが目に見えた。
「‥‥‥この人‥‥」
電器店のテレビに映る男性‥‥
えっと、確か黄瀬くん。
中学校の頃から読モをやっていたらしいけど、まさかテレビにまで出るようになるとは。
人の成長っていうのは恐ろしいな。
「今日は帰ったら‥‥お風呂掃除と明日の朝ご飯の下ごしらえと‥‥」
そこまで考え、細かいことは明日やればいいやなんて思った。
今日くらい、ゆっくりしたっていいよね。
それに、冬休みの課題、終わってないし。
‥‥終わってないし。
「あーーっ、ダル‥‥」
灰崎‥‥やってくれたりしないかな‥‥
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「‥‥‥あれ?」
ふと、目にしたもの。
あれ‥‥灰崎?
‥‥綺麗な、人‥‥。
大人の女性、だよね‥‥? どうして?
ん? デート‥‥かな。
あーあー、あんなに髪まで撫でさせて‥‥。
またタブらかしてるのかな。
懲りないなぁ、本当に‥‥
「‥‥‥おかしいな」
──心臓の辺りが、妙に痛い。