第8章 シンデレラになりたくて。【灰崎 祥吾】
‥‥だけど、よくよく考えてみれば、私も久々にクリボッチではなかった。
実家にいた頃は、親が忙しくて一人のクリスマスだったし、友達と遊びに行くとしても、クリスマスの前後だったから‥‥。
なんだか、不思議な感じ。
「‥‥‥謎の男、灰崎祥吾」
「んだよ」
「うっわぁぁあ!!?」
「うっせーなァ」
今の‥‥聞かれた!?
‥‥あ、でも、別に聞かれてもいいか。
そこまでヤバイことは言ってないでしょ。
言ってないよね?
「やっと起きたか‥‥帰らなくて大丈夫なの?」
「んあ? あぁ、別に」
なんだ『別に』って。最後まで言いなさい、最後まで。
欠伸をしながらテレビを当たり前のように点ける。
ちょい‥‥ここ私の家‥‥。
「お前、今日何時まで?」
「え。‥‥夕方には、上がる」
「ほー」
『ほー』‥‥‥それ返事?
机の上に玄関から取ってきた合鍵を置く。
「好きなときに出て行ってね。それ、ポストにでも入れておいて」
「‥‥男に合鍵なんて渡すかねー、ふつー」
「灰崎は仕方なくでしょ。それに、別に灰崎なら大丈夫だって思ってるし」
「‥‥‥」
「じゃあ、行くから。ちゃんとストーブとか消していってね!」
テレビに夢中なのか、返事もしない灰崎サン。
全く‥‥。
まぁいいや、と玄関へと歩く。
リビングから離れていくほど、寒さが増しているような気がする。
「うぅぅ‥‥さむ‥‥」
マフラー、は、そういやまだ洗濯してなかった‥‥不覚‥‥。
手袋くらいはしていきたいけど、ないな。買ってない。
私は今日も、この極寒を耐え抜くために金を稼ぐ!
行け! 女、維──
───?
「‥‥そんな薄着じゃ、風邪ひくからな」
「‥‥‥え、」
「俺のマフラー、貸してやる」
「‥‥‥え、あ、いいよ! 大丈夫」
「いいから、着けてけ」
「うぇぇ‥‥」
でも、灰崎が風邪ひくよね!?
「ダメだよ、灰崎が、」
「俺は今日外出ねーから」
「‥‥‥は?」
‥‥幻聴? 幻聴かな?
幻聴であってほしい。
「‥‥外に、出ない?」
「お前の家、いてやるよ」
「‥‥‥帰れ」
幻聴じゃなかったことにうんざりしていると、灰崎がポンと私の頭に手を置いた。