第8章 シンデレラになりたくて。【灰崎 祥吾】
維side────---
‥‥朝‥‥‥か‥‥
「‥‥うぅぅ‥‥‥ん?」
何だか首が痛いな‥‥なんて思いながら起き上がると、灰崎がスヤスヤと眠っていた。
私の睡眠領域(寝るスペース)まで腕が侵入してきているのを見ると、どうやら腕枕をしていたようだ。
─────はッ!!!?
「うっ──腕‥‥ッ、腕枕‥‥!?」
いやでも、普通、なのか?
別に、そんな、そんな気にすることじゃ‥‥
「───いやいやおかしい!!!!」
「‥‥ん‥‥‥あ?」
「あ」
「うっせーな‥‥朝から‥‥」
「灰崎‥‥」
のそのそと布団に潜り込む大男。
全く、これだから何もすることがない高校生は困る‥‥もっと動け! けっ!
「───ッ!!!? ちょ、」
「黙れ」
‥‥‥は‥‥‥
腰をぐるりと抱き締め、すり寄ってきた灰崎。
うわ、何してんの、常套(じょうとう)手段ですか、それ。
「でも、動けないんだけど」
「あと少しくらい良いだろ」
「えぇ‥‥」
いいのかな‥‥。
付き合ってもいない男女がこんなことをしていいのか‥‥?
‥‥ん? でも、家族にもこういうことってする時あるよね。
‥‥じゃあ、いいのかな。
「‥‥お前は‥‥違ェ‥‥」
「え?」
「‥‥お前は‥‥他とは‥‥」
「へ?」
聞こえない‥‥。
なに? 『お前』しか聞き取れない。
疑問符が飛び交う私を他所に、グースカ寝始める灰崎。
おいおい‥‥。
「‥‥黙ってれば、普通なのに‥‥」
勿体ないな。こんなに端正な顔して。
灰崎がどの女の子も落とせるのは、やっぱりそれなりに扱いに慣れてるからだよね‥‥‥
‥‥‥ん?
‥‥なに、今の‥‥。
「‥‥痛い」
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本格的に寝てしまった灰崎の腕をゆっくり退かして、ベッドから降りる。
そうこうしている内に、シフトの時間が迫ってきた。
灰崎どうしようかな‥‥起こすのも悪いしな‥‥。
「‥‥鍵でも渡しとけばいいか」
さすがに灰崎でも、人の家の鍵を売ったりは‥‥しないだろう。
今日も寒い。
冬だ。雪だ。
しかも今日は、クリスマス。イヴじゃないほう。
甘い甘い朝でも迎えてるんだろうな、世のカップルは。