第8章 シンデレラになりたくて。【灰崎 祥吾】
灰崎side─────---
‥‥寝やがった。
色気もクソもなく、仰向けに眠るそいつ。
そういや、こいつの名前、忘れちまったな。
中学の頃も、呼んだことなかったし、覚える必要もなかった。
こいつだって、さっきまで覚えてなかったしな。
「‥‥‥間抜けだなァ、おい」
無防備を通り越して、隣で男が寝てることすら忘れてる感じだな、これ。
それくらい、疲れてんのか。
なんでそこまで面倒臭ェこと毎日毎日続けられんだ?
楽しくねぇこと続けたって、意味無いだろ。
‥‥あ、そうか。一人暮らしだったな、こいつ。
あー、クソ。頭回んねェ。眠ィんだな、俺も。
狭ぃベッドで、極力動かないようにして横を向く。
そいつの寝顔を見てると、久々に瞼が重くなって、眠くなってきた。
‥‥──遠くでクラッカーの音がした。
あー、そういや‥‥今日、クリスマスだな。
俺も今日は女でも誘おうかと思ってたが、あの店に入った瞬間、お前が見えて。
電話をかけようとした手を止めた。
久々だったからか、それともただの気まぐれだったか。
多分後者だと思うが、もう女と遊ぶ気も失せていた。
──俺、こいつのこと──、
‥‥いや、なんでもね。
例えそうだとしても別にどうもしねェ。
一人の女になんか、そそられねぇし。
こいつが誰かと付き合ってんなら奪ってやろうとか思ったが、そう考えるのも面倒だった。
「‥‥マジで、間抜けだな‥‥」
俺も、お前も。