第8章 シンデレラになりたくて。【灰崎 祥吾】
眠い‥‥どうしよう、眠すぎる。
でも、そうだ、新しく買ってきた雑誌。
あれ読めば、少しは眠気覚めるかな‥‥。
そう思って、グデグデしながら起き上がる。
さっき灰崎と帰りに寄ったコンビニで、今日発売の雑誌を買った。
私の憧れてるモデルが専属してるやつ。
すごくきれい。かわいい。すべての言葉が当てはまる。
パラパラと捲ってみれば、やっぱりクリスマス特集。
あの子もどの子も、サンタの格好なんかしちゃって、寒そうなのにミニスカだ。
大変だな。
捲っていくうち、カップル特集に差し掛かった。
いつもすっ飛ばしてるページ。
私には役に立たない情報ばっかりだから。
「‥‥『彼の心を掴む仕草大解剖!』‥‥」
『彼』ねぇ‥‥。
灰崎にこんなことしてもきっと、鼻で笑うだけだ。
あいつは的外れだ。私には向いてない。
ふむふむ‥‥『すべてを斜めに』。
少し角度をつけると一気に女っぽくなるらしい。
例えば、髪を耳にかけるとき、反対の手でかけるとか‥‥。
ははーん。
そんなんで鷲掴みになんかできるのかな。
こういうことを発信してる時点でもうアウトな気がするんだけどな。
やっぱり、向いてない。
こういうケチをつけるところからして、私に甘酸っぱい恋は似合わないんだ。
「‥‥幸せそう‥‥」
「──っはぁーッ」
「!」
「スッキリ」
「‥‥‥」
「‥‥?」
「‥‥ふ、‥‥服‥‥‥‥着て!!!?」
「あァ?」
なん‥‥なんで、上素っ裸なの!!!?
え、頭おかしいの!!!?
風邪ひく! ダメ!
「恥ずかしいのかァ?」
「違う! 風邪! 風邪ひく!」
「‥‥とか言いつつ顔真っ赤だけど」
「そんなことない!」
あーもう、なに考えてんの、この人。
でも、うわ、そうだ、服無い。
男物の服なんてない。
灰崎、制服で来たから持ってるはず無いよね‥‥。
「と、とりあえずこれ着て!」
「あ? んだこれ」
「お父さんのやつ! 貰ってきた!」
「‥‥‥」
タンスをボンボン漁ると、部屋着にしていたお父さんのパーカーがあった。
ラッキー、ラッキーボーイだな灰崎。
「‥‥着た?」
「‥‥着た」
恐る恐る振り返ると、普通の灰崎がいた。
はぁー‥‥よかった。
まったく、手を焼かせる男だ。