第8章 シンデレラになりたくて。【灰崎 祥吾】
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あっさり、入れてしまった。
「おー、意外と新しいのな」
「3年間だけだからね。家賃そこそこでもいいやって」
適当に食べて、と言い残して洗面所へ向かった。
お風呂‥‥ご飯よりも早く温まりたい。
ジャァァァァ‥‥‥とお湯が流れ出た。
溜まるのには30分ほどかかる。
それまでは、何としてでも眠ってはいけない。
「‥‥美味しい?」
「あ? まぁな」
貪っている灰崎に、お腹空いてたのかな、なんて思ってベッドにダイブした。
テレビをつければ、クリスマス特集ばっかり。
クリスマス、クリスマス‥‥私のクリスマスはどこにもない。
「あ、そうだ。お湯、30分経ったら止めて‥‥」
「あァ? 俺が?」
「よろしく‥‥」
「‥‥寝た‥‥」
ふわふわのベッド。
ストーブ臭い香り。
テレビの向こうの笑い声。
時折聞こえてくる灰崎の乾いた笑い。
夢なのかな‥‥。
あの灰崎を、私、家に入れちゃった。
あんなに悪く言われ続けて、確かに素行は悪かった灰崎を、簡単に許しちゃった。
‥‥ああ、でも。
別に、悪いやつじゃないのかもしれない。
だって、
誰も言ってくれなかった「ありがとう」を、彼は言ってくれた。
みんな、自分のクリスマスに浸って、誰も「ありがとう」なんて言ってなかったのに。
彼だけは、「さんきゅ」って言ってくれた。
あはは‥‥、ちょろい女だ、私は‥‥。
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「‥‥い、‥‥おい」
「‥‥あ‥‥」
「風呂、沸いた」
「‥‥分かった」
‥‥あー、やばい。
ガチ寝、してた。
しかも布団被ってなかったから寒い。
口開けてたのかな、喉が痛い。
最悪だー‥‥。
「ぐぅ~~‥‥、あ、先入ってきてもいいよ」
「あ? 俺?」
「お客だし。いいよ」
「‥‥そうだなァ」
‥‥‥?
なんか、考えてる‥‥?
「‥‥一緒に入るか?」
‥‥‥は?
「‥‥入んないよ‥‥そんな」
付き合ってもない男女が‥‥
「普通だろ? 変なことしねーって、多分」
「多分じゃん。信用できない」
寝返りをうって、また目を閉じた。
そのうち、立ち上がる音がして、廊下の方へ消えていった。