第8章 シンデレラになりたくて。【灰崎 祥吾】
「今はバイト中だから‥‥さっさと注文して」
「おーおー」
ただでさえ混んでるんだ。
滞らせる訳にはいかない‥‥
「1430円です」
「さんきゅ」
「ありがとうございました」
結局、チキン5ピースとLサイズのコーラだけを買った灰崎。
あれ‥‥彼女と食べる訳じゃないのかな。
「お次のお客様どうぞー」
でも、ま、私には関係ないしね。
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シフトチェンジで先に上がる。
これから家に帰ってご飯も作るなんて‥‥貧乏暇なしって本当だ。
「はぁー‥‥寒い」
手袋もマフラーもない。
そんなものを着けてくる余裕もなかった。
だからだよね。指先が荒れてる。
唇も乾燥してるし、頬も乾燥してる。
みっともないなぁ、クリスマスなのに‥‥
「遅かったな」
「‥‥‥え」
‥‥うわ‥‥。
「‥‥なんでいるの?」
「お前、独り暮らしなの? 実家は東京だって言ってたよな」
「話聞いて‥‥」
「だから泊まらせろ。今日だけ」
「‥‥‥むりむりむりむり」
「はァ? なんでだよ」
「狭いし、ご飯ないし、お風呂沸いてないし」
「飯はこれでいいだろ。買ってくか?」
「えぇ‥‥」
な、なんで‥‥私の家なの?
こっちはもう疲れて早く寝たいんだけど‥‥。
「彼女とかいないの? クリスマスだよ、今日」
「だからなんだよ。俺には関係ねーしな」
「私、疲れてるんだけど」
「俺もだよ。おい、行くぞ」
「‥‥‥」
反撃する気力もない。
はぁ‥‥クリスマスなのに。
‥‥でも、ただ泊まるだけだし‥‥、変なことしてきたら追い出せばいいよね。
もう、疲れた。
抵抗するくらいなら早く帰りたい。
「‥‥クリスマスなのに」
「クリスマスだから、誰かと居るんだろ」
「‥‥なんで、私なの‥‥」
「久々に会ったんだからいいだろォ、別に」
向こうの方でクリスマスツリーが光ってる。
どうして、どうしてこの人と居るの‥‥?
私のクリスマス、波乱過ぎません?