第8章 シンデレラになりたくて。【灰崎 祥吾】
維side─────---
ああ、もう。
ツイてない。
恋人が浮かれ始める12月。
クリスマス。ついでにイヴ。
世のカップルは片方の家に泊まり込み、明日の朝、甘い「おはよう」を交わすんだろう。
私だって、友達とクリスマスツリーの写真を撮りに行きたかった。
出来るものなら、恋人とそういう日々だって過ごしてみたかった。
なのに‥‥はぁ‥‥。
朝から晩まで、「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」の繰り返し。
手渡すチキンはホカホカで、貰うお客様も笑顔が絶えない。
「‥‥お次のお客様どうぞー」
だけど、あんまり余韻にも浸っていられない。
仕事だ。遊びじゃない。
12月に最も売れる某チキン専門店で、バイトをしている私、維。
独り暮らしの家賃、光熱費を払うためには、青春だって棒に振らなければいけないのだ。
「ご注文どうぞ」
「‥‥‥店員がつまんなそうな顔してんじゃねーよ」
「‥‥え?」
パッと顔をあげると‥‥‥
‥‥‥あげると、誰?
「え、‥‥‥ご注文どうぞ?」
「シカトかァ? ひでーなー、おい」
「‥‥‥」
誰、この人。
すごい、ピアスだ‥‥。
いや、それだけじゃなくて髪型もすごい。何それ、コ、コーンロウ‥‥。
「‥‥どこかでお会いしましたか?」
「‥‥覚えてねーの?」
「え?」
目付きが一段とキツくなった。
そのコーンロウヘアーの男は、不機嫌そうに呟く。
「お前、帝光通ってたろ。3年の時同じクラスだったのになァ‥‥」
「‥‥え、嘘‥‥」
その、声‥‥あれ、もしかして‥‥。
‥‥いやでも、間違ってる可能性の方が大きいよね?
だって、髪が‥‥髪が。
でも、その、声‥‥
「‥‥灰崎、くん?」
「おーおー、やった分かったのか」
「‥‥‥」
‥‥うっそー‥‥。
「え、何、その頭‥‥え?」
「染めたんだよ。イケてるだろ?」
「なんか‥‥とうもろこし‥‥みたい」
「あ?」
嘘。あの灰崎祥吾?
こいつの噂で良いものが出たことはない。
女を連れ遊び、暴力沙汰なんて結構あった。
それでバスケ部も退部させられたって聞いたし、やっぱり、素行は目に余るものがあったんだろう。
まぁ、自業自得‥‥だけど。
そんな男が、私のこと、覚えてたのか‥‥。
‥‥逆に怖いわ。