第7章 人は見た目で決まらない【原 一哉】
「‥‥フッて」
「あ?」
「もういいから。フッて」
そうだ。そうだよ。
こいつから、フッてもらえばいいんだ。
そんな淡い期待なんか、届くはずがなくて。
「‥‥あー、そういうの、めんどくせぇ」
「‥‥‥」
「お前、俺がなんも思わねぇで一緒にいるとか思ってたのかよ」
「‥‥‥は」
「そんなめんどくせぇこと、いちいちしてられっかよ」
「‥‥何言って、」
「‥‥好きだから一緒にいるとか、微塵も思わなかったわけ?」
───だって、あの原だよ。
女を遊び倒してる原が。
一人の女に留まるなんて、おかしすぎる。
信じられないよ。当たり前だよ。
「‥‥‥お前、俺のこと好きなんだろ?」
「‥‥嫌いじゃないって、言っただけ」
「俺だって、嫌いじゃねーし」
ずっと、遊ばれていると思ってた。
暇潰しだって。飽きたら終わるって。
だから、私も本気にしないで生きてきた。
なのに‥‥どうして‥‥
どこから、こんなに変わってたんだろう。
「‥‥ちゃんと好きだから」
ものすごく、その言葉が突き刺さる。
すごい。
あのとき、言われた『俺と付き合って』よりも突き刺さった。
かさぶたに突き刺さるものじゃなくて、ちゃんと、あるべき場所に落ちてきた。
「‥‥泣いてんの?」
「‥‥泣いてない‥‥」
「泣いてんじゃん」
「‥‥だって、」
ありえないって、思ってたから。
おかしいって思ってたから。
自分が傷つくの、防ぎたかっただけなのかもしれない。
「‥‥信じられないよ‥‥」
ポロポロ落ちてく涙が、自分のものじゃないみたいで。
「‥‥本気で、好きだから」
「‥‥嘘だ」
「嘘じゃねーし。ほんとに、大事にしたいって、思う」
「なんで片言なの」
「うっせえ」
目は見えない。相変わらず。
なのに、その手は、的確に私の涙を拭いとった。
「なんで‥‥私なの‥‥他にも、たくさん、いるのに」
「知らね」
「なっ──」
──また。
「‥‥‥突然キスしてごめんね」
「‥‥今もしたくせに」
「じゃあいちいち言うのかよ」
「‥‥‥言わなくていい」
「そのほうが俺もいい」
腰と頭に回された手が、熱かった。