第7章 人は見た目で決まらない【原 一哉】
「恋人には許可を取らなくてもキスできる権利があるだろ。好き同士なんだし」
「‥‥好き同士じゃないでしょ」
「‥‥‥は?」
よく言うよ。好きでもないくせに。
「何言ってんだよ」
「好きじゃない。別に」
「‥‥あーそう」
「あんただって、そうでしょ」
「‥‥‥」
ほら、黙る。
それが何よりもの証拠でしょ。
あぁ、なんだろう。
痛くて、痛くて、なんだかもう感覚がない気がしてきた。
‥‥‥どうして、痛いんだろう。
「男は、誰とだって付き合えるんでしょ‥‥
でも、どんなに重いって言われようが、女は好きでもない人と長時間一緒にいるなんて出来ないんだよ‥‥」
‥‥‥あれ、これじゃ、まるで‥‥‥
私が、こいつのこと、好きみたいじゃん。
「‥‥っ‥‥あと少しで肉じゃができるから‥‥‥じゃあね」
ああ、これ、なんかもう別れの挨拶みたい。
私たち、終わるんだ。
直感が、そう言ってる。
「‥‥お前さ、俺のこと好きなの? 嫌いなの? ‥‥どっちだよ」
「‥‥‥」
答えられない。
即行で「嫌い」って言えばいいだけなのに。
合わないんだから、何もかも。
もう、終わろうと思えば終われるのに。
だから、ほら、言って。
「‥‥‥嫌い」
「‥‥‥」
「───じゃない‥‥」
ダメだ。もうだめ。
この人といるとイライラする。
自分が思うようにいかない。
ほら、またそうやって泣く。
すぐ泣くの、悪い癖。
嫌い。嫌い。
こんな自分が、嫌い。
「‥‥はぁ───」
情けない。
こいつが発する一つ一つに、反応してしまう。
惨めだ。
一方通行な愛ほど、惨めなものはないのに。
「‥‥‥こっち、来れば」
首を横に振る。
行きたくない。あなたのところになんて。
嫌だ、認めるわけにはいかない。
ああもう。さっき「嫌い」で終わらせておけばよかった。
「───来いって」
「!」
ものすごく、低い声だった。
聞いたこともないような、低い低い声。
原がそんな声を出せるなんて、信じられなかった。
気圧されたのか、私の足は自然とそっちへ行っていた。