第7章 人は見た目で決まらない【原 一哉】
────近い、近い? 近すぎない!?
なんでこんなに迫ってくるの、炊飯器あっちじゃないの、私まだエプロンも取ってないんだけど‥‥!!
「‥‥‥っひ‥‥」
腕が横に伸びてきて、もうダメだと思った瞬間───
「の前に、水‥‥」
「‥‥‥あ、え、みず?」
「喉乾いたし。後ろ失礼」
「あ、はい」
──その腕は私の後ろを狙っていた。
‥‥‥恥っっっっっず‥‥‥。
こいつが寝惚けててよかった。
気づかれなくてよかった。
心臓バックバクな私などお構いなしに、ゴクゴク水を飲む原。
呑気に‥‥
「そういやさっき、変な声出してなかった?」
「はぃ!?」
「え、そんな驚くか」
「あ、いや、え、何も言ってないけど」
「‥‥‥そー」
気、付いてたの?
いやでも、聞き間違いだって思ってるみたいだし。大丈夫だよ、ね。
「‥‥‥はーっ、‥‥‥またまた失礼」
「っふぁ‥‥‥ッ!?」
──! しまっ───
「‥‥‥ははーん」
「!」
ニヤリと歪む口角。
意地悪そうな顔。目見えないけど。
「そういうことかよ」
「な、‥‥‥何が」
「‥‥意外とかわいいとこもあんじゃん」
「‥‥‥! かわっ───」
─────、
‥‥‥え?
あ、れ‥‥‥今‥‥‥。
「───ッ!!!」
遂に、見えたその目。
一瞬、一瞬だけど、見えてしまった。
‥‥すごい‥‥‥きれい‥‥‥。
「───いやぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「! ぶへっ───」
っていう感想よりも先に。
無意識に出た掌が、原の頬に直撃した。
「いって‥‥」
「なっ、なに、何して‥‥ッ」
「あ? 何って、キスだろ。ふつーに」
「ふ、ふつーって‥‥」
普通じゃない。ありえない。
許可もとらないでキスするなんて。
信じられない。
「普通は、勝手にするもんじゃない、よ‥‥」
「は? いちいち訊くかよ、ふつー」
「普通は無許可でやるもんじゃない」
『ふつう合戦』。
私の普通と、原のふつーがぶつかっていた。
何、やだ、キス、なんて、そんな‥‥
私、いやいや、別に、こんなの口洗えばどうってこと‥‥ない‥‥
「‥‥重くね?」
「!」
あんたが‥‥軽すぎるんだよ‥‥。
あんたなんかに、そんな言葉言われたくない。