第6章 意気地無しのくせに。【森山由孝】
気がついたら、駆け出していた。
森山の服を掴んで、揺さぶって。
こんなことしても何も変わらないなんて、そんなの分かってる。
でも・・・森山への劣等感や、・・・想いとか。
そういうものが溢れ出ないように、ぐっと、掌に力を込めた。
『森山は・・・・・・・・・いいなぁ』
森山に劣等感を抱くなんて馬鹿らしいけど。
そもそも、森山と対等に分け合えるものなんて、何一つ持っていなかったのに。
それでも、
『・・・素直にもなれない私とは大違い』
好きって、こういうことだ。
森山じゃないとダメなんだよ。
『何でか、分かんないけど・・・っ、私には・・・森山以外、有り得ないんだよ・・・』
どうしてだか、理由なんて分からない。
人を好きになる理由はあるだろうけど、人を好きで居続けられる理由なんてそうそう見つからない。
しかも私は重症みたいで、日に日に想いは強くなるばかり。
大きく膨れ上がって、張り裂けそうで、なんとか堪えて。
それなのに、森山を見つけるとまた膨れ上がる。
───どうしても、好き。
『・・・っ・・・』
「・・・」
来る静寂。
しゃくりあげそうになるし、時計の音しか聞こえないし、まるでさっきとは別の世界みたいだ。
「・・・・・・っぷ・・・」
『・・・え?』
そんな沈黙を破ったのは、彼の吹き出し。
・・・・・・何で笑ったの?
「・・・何でか、分からないって・・・。
・・・分かんないのか」
『え、あ、うん・・・』
今さらだけど恥ずかしい。
あんま繰り返し言わないでよ。
笑われたこととリピートされたことに屈辱を感じてつい下を向く。
すると、掌が頬を撫でた。
「・・・俺だって、余裕があるわけじゃない」
───・・・。
「・・・維の前だと、心臓鳴りっぱなしだ」
『・・・・・・』
・・・嘘だ。
「俺だって、維以外有り得ない。維を初めて見つけたとき、運命を一瞬疑ったくらい惚れた」
『・・・・・・』
「維だから俺はここまで幸せで居られたし、維だからこんなに温かくなったんだ」
『・・・・・・』
「・・・俺の方こそ、素直にものは言えないし、不器用な人間だ」
でも───・・・、
「・・・維に会えて良かったって、心から言える」